史上最強 それは武を学ぶものが目指す究極の称号 幾千幾万の者が己の生涯をかけて挑み 幾千幾万の者が夢半ばに散っていく 幾千幾万の者が後世に想いを託し 幾千幾万の者が想いを継いでいく 武とは 戦う術 守る術 己を磨く術など多種多様にして幾つもの道程がある どの道を選ぶか どの道が正しいのか 人の歴史の中で最強と呼ばれた者と同じ道ならばたどりつけるのか 誰もが悩み誰もが選択してきた数々の道 その中でも 最も険しい道を駆け抜け……真っ直ぐに落ちていった者がいた これは 史上最強の称号を与えられた一人の青年の物語である 史上最強の教師 ケンイチ!! 第一話『ネギまがどうした! 秋雨だ!』 史上最強を目指す者たちにとって、無視して通ることができない場所がある。 ――――梁山泊 武を極めたが故に、俗世になじむことができない達人たちが集うヴァルハラ。 とある町中にある場違いで古ぼけた道場がそれである。 「うにょろーーーー!」 そして、ここ数年ご近所で慣れ親しまれた絶叫がどこまでも高く青い空に木霊した。 絶叫を上げた青年の名前は白浜兼一。 今を去ること五年程前、ひょんなことから梁山泊の弟子になってしまった幸薄い青年である。 当時は高校一年生だった彼なのだが、 五年の歳月と地獄と言う言葉が生ぬるいとさえ言い切れる修行やら特訓やらのせいでずいぶんと鍛えられた。 背と髪が伸びたぐらいで見た目の変化は特にないが……。 才能のない彼が、ひたすら"落ち続ける"達人への道。 未だに師匠方の誰一人にも勝てない彼は、本当に自分は強くなっているのだろうかと、 これまでに軽く千回以上は考えてきているがそれは杞憂である……が、その件についてはまた後ほど。 「ド、ド○えも〜ん! これは一体何の修行なんですかーーー!?」 木で作られた何やら怪しげな球体状の物体の中心で今日も兼一の叫びが鳴り響く。 何を隠そうこのぐるぐると上下左右縦横無尽に回る物体。 設計、作成、ともに各分野で名を轟かす岬越寺秋雨による会心の一品である。 岬越寺秋雨、哲学する柔術家と呼ばれる梁山泊の豪傑の一人にして何でもこなす完璧超人。 各分野で高名なためか人脈がとてつもなく広い。 また、兼一の訓練道具などはほぼ全て彼の作品である。 備考:ピーマンを食べれない。 「違う違う、秋雨だってば。それに最初に説明しただろう? その悶絶回転地獄車もどき絶叫特訓ましーん三号は必要な筋肉のみを重点的に鍛えるものだよ。 まぁ、私の哲学と経験と計算と感によって導き出されたんだが。 って、そういえば今回でその台詞は記念すべき300回目だね」 おめでと〜、と言いながら手に持った怪しげなリモコンのつまみを右に捻った。 その瞬間、回転速度が先ほどまでの3倍ほどの速さへとかわる。 ちなみにつまみのメモリは小走りから全速力へと移行されたことをここに記載する。 「ぎゃーーーーー! し、しにゅーーーー! と、ひふふぁ……ころふぁれふーーーーーー!!」 あまりの回転速度に満足に喋ることができず、所々聞き取りずらい叫びを上げながら兼一はぐるぐると回る。 いっそ気持ちが良いぐらいぐるぐる回る。とにかく回る。 「大丈夫だよ。私の知る限り、そう言って死んだやつは"まだ"いないからね〜。 じゃあ、もうちょっと速度を上げてみようかー!」 そう言うやいなや、キュピーンという擬音が聞こえてきそうなぐらい岬越寺の目が光る。 つまみのメモリが長老速と言う訳のわかならい単位に設定され、今までの速さが亀かと思える速度へと変わる。 「%$■*@ーーーーーー!!!」 ついに、兼一から通常人から発せられないだろう絶叫があげられた。 正直、舌を噛まないか心配でしょうがない。 「あぱ? ねえねえ秋雨。さっきからバチバチなってるよ、大丈夫?」 と、その光景を不思議そうに見学していた梁山泊の豪傑の一人、アパチャイが疑問の声を上げた。 アパチャイ・ホパチャイ、裏ムエタイ界の死神と呼ばれ恐れられる褐色の大男である。 本能にまで相手をぬっころすことがインプットされているため手加減が苦手。 しかし、遺伝子にまで優しさが刻み込まれた心優しき巨人である。 備考:オセロがプロ級に強い。(兼一の妹には未だに勝てないが……) 「ん、どこが……ってあれは少々危ないか……(汗)」 流石の岬越寺も顔を引きつらせ冷や汗をかくほど、現在の『悶絶〜』の速度は異常だった。 もはや達人である岬越寺やアパチャイの目にすら。兼一を正確に視認することが不可能なのだ。 その速さ、押して知るべし。 しかも、回転速度が異常すぎるためか、所々で放電現象が起こっていてとってもデンジャラス。 「流石に速度を落とさないと危険か……ネジでも絞め忘れたかな〜」 そう言って顎に手を当てて首を捻る岬越寺。 まだ止める気はないらしい……。 「あぱぱ、アパチャイそれ知ってるよ! 骨法も骨折り損のくたびれ桶の狸さんの皮算用よ!」 「あ〜、弘法も筆の誤りのことかい?」 『メキ!』 っと、暢気に会話を続けていた彼らの耳に異音が届いた。 その音を聞いて、兼一の方へと視線を向けた岬越寺とアパチャイの顔がひきつった。 『悶絶〜』の中心である球状の物体を支えていた外殻の部分に亀裂が走っているのだ。 「ぬ、いかん!」 事態の深刻さに今更ながら焦った岬越寺が『悶絶〜』に近寄ろうとして、突然の光に思わず目を手で覆った。 そして……次に岬越寺が目を開いたとき、そこには外殻だけを残した『悶絶〜』の壊れた姿だけがあった。 「あぱぱぱぱー!? け、兼一が攫われたよ! キャトルミューティレーションよ!」 「いや、一体何処からそんな知識を仕入れてくるんだね君は? ……にしても、あながちド○えもんの呼称も間違っていなかったか。 まさか、私の作品が秘密道具の域まで達しているとは……」 恐れ入ったよ、と兼一が消えてしまったことにも然程動じない彼の思考回路を見れるものなら見てみたい。 ……常人ならば発狂しかねないが。 「でも、どうするよ秋雨? 兼一は今日、しぐれとデートだったはずよ?」 さも今思い出したと言う風に顎に指を当ててアパチャイが爆弾発言をする。 それを聞くと同時に、 「な、何!? ……こうしては居られない! アパチャイ! 私は少々奥の細道を検証する旅に出たとしぐれに……遅かったか……」 何時もの飄々とした態度は何処へやら、かなり焦った様子で身支度を始める岬越寺。 しかし、いくらパーフェクト超人の岬越寺でも覆せない運命と言うものはある。 それが今この時、彼女の帰還であったのだろう。 「秋雨、兼一……は?」 突然現れ、岬越寺の首に何時の間にか抜いた刀を当てながら美女は問いただした。 彼女は、武器の申し子香坂しぐれ。 その二つ名の通りあらゆる武器に精通した豪傑の一人である。 兼一が梁山泊に来た当初も妖艶な美女であったが数年たった今では更に磨きがかかっている。 また、口数は多いとは言えないが会話が嫌いなわけではない。 備考:兼一が大のお気に入り。 「うむ、まずは話し合おうじゃないかしぐれ。 とりあえず、その物騒なモノを下ろしてくれないかな?」 「今日はボクと…………デートの日……だ」 だからさっさと兼一の居所を吐けと言う様に、首の皮一枚を切るしぐれ。 表情自体は何時もの無表情だが、付き合いの長い岬越寺には噴火寸前の火山に見えていた。 (……秋雨ピンチ! 幾らなんでも私の秘密道具、もとい修行道具で消えたなんてとても――) 表面ではポーカーフェイスを演じながら、内心では焦りまくりの岬越寺。 そして、状況がまったくわかっていないのか、アパチャイが正直に脚色しつつ正解に近い答えを言った。 「あぱ、兼一なら秋雨の拷問器具で昇天して異世界に旅立ったよー」 (ア、アパチャーーーーイ!!! 私を殺すきか!?) 「……どういうこ……と? 返答次第では、秋雨でも…………切る!」 キュピーンと目が光り、岬越寺の首に当てられた刀に殺気がこもる。 ここに、第……数えるのも馬鹿らしくなる回、梁山泊豪傑大戦の幕が切って落とされた。 が、次回からのお話には全く関係ないのでこれにて。 つづく