史上最強 それは武を学ぶものが目指す究極の称号 幾千幾万の者が己の生涯をかけて挑み 幾千幾万の者が夢半ばに散っていく 幾千幾万の者が後世に想いを託し 幾千幾万の者が想いを継いでいく 武とは 戦う術 守る術 己を磨く術など多種多様にして幾つもの道程がある どの道を選ぶか どの道が正しいのか 人の歴史の中で最強と呼ばれた者と同じ道ならばたどりつけるのか 誰もが悩み誰もが選択してきた数々の道 その中でも 最も険しい道を駆け抜け……真っ直ぐに落ちていった者がいた これは 史上最強の称号を与えられた一人の青年の物語である 史上最強の教師 ケンイチ!! 第二話『もしかして、修行でまた森の中!?』 夜の帳も降り、静けさ漂う某学園内のとある森の中、それを崩す一角があった。 ある一点を中心にクレーターができており、その周りを衝撃によってか倒れた木々が転がっている。 そして、クレーターの中心で動く影があった。 「っ……こ、ここは?」 何を隠そう、我らが主人公白浜兼一青年である。 辺りの被害の状況を考えると彼自身も相当の傷があってしかるべきだが、その身体には傷一つない。 強いてあげれば、彼の長い髪の毛が少々ボサボサになり顔が多少汚れている程度。 彼の修行着に至っては汚れ一つない……。 ……服もあわせて本当に人という規格の中に納まるのだろうか、甚だ疑問である。 「う〜ん、時間は大体11時ぐらい。場所は森の中っぽい。 ……って、何時もとあんまり変わらない状況だな〜」 通常、気がついたら見知らぬ土地にいたり夜の森の中にいれば誰もが慌てふためくはずだが、 白浜兼一にとっては日常的なことであるらしく落ち着いたものだ。 星の位置などを元に大まかな時刻を計ったりしている。 「……やけに大きいクレーターとなぎ倒された木々、それに壊れた『悶絶〜』が今一解らないけど、 『突然放り出された状況から速やかに梁山泊まで帰って来い! ……遅かった場合はスペシャル地獄コースの特訓が待ってるよ♪』っぽいなあ」 でも、連れて行かれそうな"絶海の孤島"やら前人未到(梁山泊の方々は除く)の秘境とかはほとんど制覇したからな〜、 などと常人が聞いたら眩暈がしそうなことを当然の如く言う彼は、既に梁山泊に毒されているようだ。 朱に交われば赤くなる。まさにその通りであろう。 「富士の樹海じゃない……離島でもなさそう。辺りに生えてる植物とかからすれば外国じゃないし。 うむむ、取りあえず大体の現在地だけでも調べないと」 (すぐに帰らないとかなりシャレにならない特訓が追加されるからな〜……ん? 何か忘れて…………っ!? し、しぐれさんと買い物に行く約束をしてたじゃないか!」 途中から心の声が駄々漏れになっているが仕方のないことだろう。 なにせ、彼の人生哲学ケッヘルナンバー狼の巻第参章十七行目には、 『知り合いの女性には何があっても絶対服従、決して逆らうな!』と記載されているのだから……。 ましてや、約束をすっぽかしたとなると……。 (うぅ、しぐれさんって素直にいじけるんだよね……しかも中々機嫌を直してくれないし。 それがミスマッチで可愛いんだけど……って、この状況で何言ってるかな僕は!?) 色々と訂正事項がでてきたようだ。 彼は色々な意味で成長しているが精神面は今一つっぽい、特に女性関係……。 まぁ、師匠方が師匠方だから仕方ないような気がちらほらとするのが涙を誘う。 「……取りあえず、しぐれさんのことは帰ってから考えるとしよう。 そうとなったらさっさと帰らないと!」 そう言うやいなや、両膝を折り一気に跳躍した。 高さにして5m以上。軽く世界新記録が狙えそうだが、彼にとっては特筆すべき事ではないようだ。 そのまま途中の枝でも同じことをして手近な木の天辺までたどり着き、木々の上を疾走し始めた。 (長老と馬師父に軽気孔もどきをならってなかったら今頃どうなっていたことか……) 馬剣星。あらゆる中国拳法の達人にしてエッチなオジちゃん。 小柄な体躯ながらその実力は桁違い。 備考:馬蓮華と言う娘がおり、兼一にラブラブ。 長老、風林寺隼人。無敵超人、鬼を食らう武神と呼ばれるお爺さん。 老齢ながらその体躯は鍛え抜かれた鋼の如く、その心は若いころのまま血気盛ん。 悪を叩き潰すことが趣味で、兼一青年の知る限り最も危険な人物である。 備考:鳥獣戯画が大好き。 そんなことを思いながら不安定どころの話ではない細い枝にも軽々と乗り、そのまま跳躍して行く。 この時点で既に人の範疇は超えているのだが、幾度か記述したとおり彼の周りでは非常識こそが常識なのだ。 まあ、この程度で驚いていたら老人や心臓の弱い方はポックリ逝きかねない。 と、そのまま数分程木々の上を行く兼一の目に遠めでも良く見える巨木が視界をよぎった。 「お、大きいっ!? 二年前に見た屋久杉とかよりも全然大きいよ! 本当に日本かなここ? あんなのがあったら幾らなんでも知ってるだろうし。 ……って、灯りがある!? ってことは人里離れた山奥じゃなかったんだ……益々解らないな」 巨木の周りには明らかに人口の明かりがある。 ならば、ここは今まで放り込まれたような人外魔境の類ではなさそうだ。 だがしかし、そうなると今この場に居る状況を説明できない。 梁山泊の方々がそんな生ぬるいところに彼を放り込むはずがないからなのが何とも……。 (まさか、岬越寺師匠の拷問……もとい、特訓器具で瞬間移動したとかあるわけがないだろうし……) などと、内心で否定しつつも額には冷や汗が流れていることから、 岬越寺ならやりかねないと兼一も本音では思っているようだ。 「ま、まさかね……と、とにかく! 今はここが何処なのかを確かめるのが先決だ!」 そう言うと先ほどまでと同様に走り出そうとして、異様な気配に立ち止まった。 (何だろう……見られてる? 逆鬼師匠にマフィアのアジトに無理矢理連れてかれて、スナイパーに狙われた時に似てるな……) 逆鬼至緒、ケンカ100段の空手家で人相とは裏腹に義理人情に厚い漢。 過去に海外で色々と危ない仕事をしながら武者修行をしていたことがある。 その関係か、マフィアとの抗争や要人のボディーガードなどの仕事を時折受けている。 備考:英語がペラペラ。 いよいよ突っ込むことに疲れを覚え始めたが、彼のここ5年の人生は一般人数人分の一生よりも濃いだろう。 「……木の上じゃ良い的になる。かといって相手の場所が解らない状況で狙撃手(仮)相手はきついな」 両腕を組み、目を閉じて瞑想状態になる兼一。 内心で困ったな〜などと思いながらも兼一からは悲壮感は感じられない。 それこそ、今日の夕食の献立はどうしようかと困るのと同等レベルの扱いである。 ……五年前には刃物を見ただけで怖がっていた少年は何処へ行ったのだろうか? (……何で狙われてるのかさっぱりだけど、まあこう言うときはセオリーどおり一発撃たせないとね。 それに、経験上そろそろ――来る!」 一瞬の殺気を感じ取り回避行動に入った兼一だが、飛来するモノを見て驚愕した。 「えっ!? 光の、矢!?」 そう、兼一へ向かって放たれたのは音速を超えて飛来する銃弾ではなく、 回避した兼一へと追うように迫る五つの光り輝く矢のようなものだった。 「疾っ!」 だが、兼一の驚愕は一瞬であった。 次の瞬間には両腕を腰だめにしたかと思うと、五つの光を左右の拳の連打で叩き落した。 不安定な空中でそんなことができるかどうかは突っ込まない方向で。 (咄嗟に迎撃したけど、威力が大したことなくて助かった〜。 アレで長老の遠当て並みの威力だったら確実に両腕が複雑骨折だったよ) 回避しきれないなんてまだまだ修行が足りないな〜などと思いながら兼一は光の矢を迎撃後、 そのまま地面へと降りて即座に走り出した。 目指す場所は既に決まっている。先ほどの攻撃をした存在の居る地点へだ。 予想外の攻撃に戸惑ったが、兼一は既に相手の気配を捕らえている。 そのため、一切の躊躇なく木々の間を最短距離で野生の獣もかくやというほどの速さで駆けていく。 (……移動を始めたみたいだ。それに、攻撃してきた人以外に後……二人いるな。 三対一で地の利はむこうにある。加えて、さっきの光の矢。 こちらが勝っている点なんてほぼ無い訳だけど……やられたら師匠たちに殺されそうだし。 でも、これは……誘導されてる、罠かな?) 相手の思惑を感じ取り警戒心を強める兼一。 彼の人生経験からすると、誘いに乗ってろくなことがなかったのだ。 ……まあ、誘いに乗らなかったら乗らなかったでろくな目にあっていないのだが。 しかし、 「もう追いついちゃったしな〜」 走り始めてから30秒弱、開けた場所で打ち合わせをしていた三つの人影に聞こえるように兼一はそう言った。 これに対して、三つの人影は当然の如く慌てた。 彼らと兼一の距離がこの短時間で、しかも夜の森の中と言う悪条件で詰められる距離ではなかったからだ。 「っ!? もう追いついてきただって!? 高音君!! 愛衣君!」 「解りました、ガンドルフィーニ先生! 出なさい!」 「は、はい! アデアット!」 色黒で唯一の男性であるガンドルフィーニが慌てながらも銃とナイフを取り出して二人の少女に合図する。 高音と呼ばれた金糸の髪の少女はすぐにその意を察して、周囲から黒衣を纏い白い仮面をつけた使い魔を呼び出す。 愛衣と呼ばれたツインテールの少女も、小さく何かを呟いたかと思うとその手にどこからかだした箒を持つ。 三者三様に構えたその瞬間、数十m先にその存在を捕捉していたはずの兼一を彼らは見失った。 「っ!? これは瞬動じゅ――「破!」――ぐはっ!?」 慌てたガンドルフィーニが兼一を見失った理由を察した時には遅かった。 すでに兼一は懐に入っており、軽く押すように肩をガンドルフィーニの胸部に当てた。 すると、突き抜けるような衝撃と共にガンドルフィーニの身体が宙を舞う。 どれ程の威力だったのか、数m吹き飛んで地面にたたきつけられ彼は意識を失った。 (箒を出したのは手品か何かかな? 黒い人型はよく解らないけど。 ……問題は銃を出したこの人か。悪者っぽくはないんだけど銃を見た瞬間咄嗟にやっちゃったよ!) 当の吹き飛ばした張本人は内心で色々とテンパっていた。 彼のつらく厳しい人生経験から、銃を持った輩はとっとと屠れと言う教訓がそなわっていた。 そのため撃たれる前に殺ることが身にしみているので気づいた時にはすでに打ち込む寸前だったのだ。 咄嗟に手加減はしたがそれでも無傷とはいかないだろう。 (こ、交渉の余地があっさりと……自業自得なんだけどなんか悲しいな〜) 「あの、えっと。今のは悲しい事故というか天災と言うか――「黙りなさい!」――あぅ」 兼一が必死にフォローを入れようとするが、無残にも高音によって切り捨てられた。 きっと、彼女の通知表には人の話を良く聞きましょうと書かれているはずだ。 「不法進入に加えて、不意打ちで先生を倒すなんてなんて卑怯な! こうなったら私が力ずくで全てを吐かせてさしあげます! 踊りなさい! 使い魔たち!」 そして、フォローする間もなく高音の合図と共に17体の黒衣の人型が兼一に迫る。 (……傀儡で操っているにしても一人で17体は多すぎる。だとしたら機械仕掛けの自動人形か何かかな? ……でもさ、少しくらい話を聞いてくれたって良いじゃないか!) 途切れなく打ち込まれる攻撃に対して、相手を分析しながら冷静に回避する。 ……冷静にテンパっているとも言うが。 そして、領域に進入したものは回避しながら確実に迎撃している。 見るものが見れば、彼の周りに結界のごとき制空圏が張られているのが見えただろう。 「そ、そんな!? 私の使い魔がこんな簡単に!? くっ、こうなったら……!」 「お、お姉さま!? まさか……!?」 「下がっていなさい愛衣。操影術近接戦闘最強奥義『黒衣の夜想曲』!」 高音がそう叫んだ瞬間、高音の服が変化しその背後に覆いかぶさるように黒衣が出現した。 しかし、先ほどまでのモノとは見た目が違い、その存在感は圧倒的だ。 そして、高音が右腕を上げると同時に黒衣から鞭のような影がいっせいに兼一へと迫った。 「っ!? しゅ、守護霊!? それともスタ○ド!?」 驚愕しながらも黒衣から伸びる鞭を回避する兼一。 そこへ、高音が黒衣を従えて迫る。 高音が振り上げた拳を打ち下ろすと、黒衣もその動きに合わせるように巨大な腕を振るった。 ズン!と言う音を立てて黒衣の拳が先ほどまで兼一が居た大地を穿つ。 こんな攻撃を受けたら、一般人はきっと木っ端ミジンコである。 (動きがリンクしてるのか? 速さは大したものじゃないけど……どうしよう。 女の子に攻撃する訳にはいかないし。かと言って話を聞いてくれそうな状況じゃない) その後の怒涛の攻撃も危なげなく回避しながら本気でどうしようかと悩む兼一。 高音はと言うと、自分の攻撃が全く当たらないことに焦りを感じていた。 「くっ、ちょこまかと! ……でも、ジリ貧でしょう? 見たところ貴方はかなりのレベルの打撃が主体の戦士系。私では捉えきれないぐらいの……。 ですが、この最強モードには打撃は通用しません。そして、オートガード機能もついています」 自身の魔法に絶対の自信があり、また、兼一を自力で倒すことが難しいと感じた高音が出した打開案。 己の最強モードの特性を話し、兼一に勝てる見込みがないと感じさせその不意をつく。 実際、兼一にも高音に危害を加えることなく倒す目処がたっていなかったため、両者とも良くて引き分けだったのだが……。 (お、お姉様!? いくら相手にプレッシャーをかけるためとは言え特性まで話しちゃって良いんですか!? 相手の人にはガンドルフィーニ先生を一瞬で倒した技があるんですよ!?) 流石はスールの契りを……流石は高音を姉と慕うだけのことはある。 愛衣も高音の作戦に気づいているが、同時にその危険性と兼一の異常な強さにも気づいていた。 (くっ! 打撃が効かないだって? しかも自動防御なんて反則じゃないか! ボクの"必殺技"以外の技のほとんどが……待てよ。彼女はボクを評価する時自分じゃ捉えられないって言った。 だけど、そのボクの攻撃をあの黒い人型は防御できるとも判断してる。 ……黒い人型は自立してはいるけど、彼女とリンクしている部分もある。 だとしたら岬越寺師匠に習ったアレで……試してみよう) そして、愛衣の予感は兼一の行動によって現実のものとなる。 「私の『黒衣の夜想曲』は無敵です。貴方に勝ち目はありません!」 「悪いけど、ボクが勝てないって決まった訳じゃないんで……ね!」 そう言うやいなや、足に気を集中させて一気に開放することで兼一は凄まじい速度で移動を開始した。 先ほど、ガンドルフィーニを攻撃した際にも用いた技術。 縮地や神移、クイックムーブなどと言われる超高速移動術である。 ちなみに、梁山泊の師匠方は本気になれば数百mの距離をほぼ一瞬で移動したりする化物連中であることをここに記載する。 予備動作もなく兼一が視界から消え、一瞬後に目の前にその姿を確認したことで高音は己の失敗を悟る。 彼女も瞬動術を使用してくる可能性を考えなかったわけではない。 ただ、最初は"入り"の動作を見過ごしただけで次の時には対応できると思っていたのだ。 そして『黒衣の夜想曲』には自動防御の機能がついている。 それは高音が捉えることができない銃弾の一撃であっても防ぎきる優秀なもの。 しかし、防御力を高めるために単純なプログラムしか術式に組み込めなかったのだ。 どんなに早い攻撃でも無条件で防ぐが、高音自身に迫る攻撃でなければ反応しない。 また、それが攻撃だと察知できない動作にも『黒衣の夜想曲』は反応できない。 それが、操影術近接戦闘最強奥義『黒衣の夜想曲』の弱点なのだ。 「チェックメイト」 兼一が高音の首に親指と人差し指を広げて軽く当てる。 すると、高音はすぐさま意識をなくして倒れこむ。 「お、お姉様!?」 「あ、大丈夫だよ。ちょっと眠ってもらっただけだから」 倒れかけた高音を支えながら、焦る愛衣を安心させるように意識して優しい声を出す兼一。 よく漫画などで描かれている首に手刀を当てて気絶させる技は、慣れない者がやれば相手にダメージが残る。 兼一ならば可能な行為では在るが、女性に手は出さないとなるとこの手段が妥当だったのだ。 ……まあ、頚動脈を押さえて気絶させるこの方法もそれなりに危ないのだが、 こと戦闘面に関しては岬越寺を信頼しているのか迷わず行った彼に乾杯。 きっと後から色々と責任を取らされることだろう。 「そ、そうじゃなくて!」 「へっ? ……って、何で裸に!?」 愛衣の焦りは高音が気絶したこともそうだが、気絶した瞬間彼女の衣服が消えることを心配してのものだった。 高音が今回着ていた戦闘服は、彼女自身の魔力で編みこまれた特別性である。 当然のことながら、彼女の意識が途切れれば消えるものなのだ。 しかも、 「ななな! お、お姉様の胸から手を離して下さい!」 「ええっ!? って、これは倒れそうになったから咄嗟に……!」 兼一の手はしっかりと高音の胸をホールドしていた! 内心では、あはは〜美羽さんよりちょっと小さいかな〜などと思っていたことから、 そうとうテンパっていることが伺えるだろう。 「言い訳は聞きたくありません!」 「は、はい! すみません!」 右手の人差し指を上げ、左手を腰に当てながら愛衣は今日会ったばかりの侵入者であろう青年に説教を始めた。 人見知りの激しい愛衣にとって普段なら有り得ない行為であるが、 後に彼女は『兼一さんだったから……です』と語る。 兼一もその迫力に押されて条件反射的に正座をしてしっかりと聞き入っている。 ちなみに、高音は愛衣のローブを着せられて兼一の膝枕でスヤスヤと寝ている……色々と後が怖い。 どうやら梁山泊での地獄の修行をもってしても、女性に対して優位になれなかったようだ。 ……合唱。 ……ああ早々。 ガンドルフィーニさんは説教が終わるまで放置されてましたとさ。 つづく