史上最強 それは武を学ぶものが目指す究極の称号 幾千幾万の者が己の生涯をかけて挑み 幾千幾万の者が夢半ばに散っていく 幾千幾万の者が後世に想いを託し 幾千幾万の者が想いを継いでいく 武とは 戦う術 守る術 己を磨く術など多種多様にして幾つもの道程がある どの道を選ぶか どの道が正しいのか 人の歴史の中で最強と呼ばれた者と同じ道ならばたどりつけるのか 誰もが悩み誰もが選択してきた数々の道 その中でも 最も険しい道を駆け抜け……真っ直ぐに落ちていった者がいた これは 史上最強の称号を与えられた一人の青年の物語である 史上最強の教師 ケンイチ!! 第五話『赤と葱』 早朝の、と言うよりもまだ日が昇っていない麻帆良学園のとある場所で、屈伸運動をする影があった。 「よし、行くか!」 そう言うと同時に走り出す影、我らが白浜兼一青年だ。 時刻にして4時、朝刊配達などは始まっているかもしれない時刻だが、一般人が起きるにはまだ早すぎる。 ……兼一を一般人のカテゴリーに分類するのはかなり無理があるが……。 「うーん、重りもタイヤも無し、当たり前だけど後ろには誰も乗ってない……何か物足りないな」 息も切らさず、時速○○キロで爆走しながら兼一はそうぼやいた。 修行を始めた当初は岬越寺が主に乗っていたのだが、最近では代わる代わる師匠方が乗っていたのだ。 ……彼の引きずるタイヤの上に。 ……何故か一番割合が多かったのがしぐれさんだったのは、梁山泊七不思議の一つっぽい。 「……ん? 誰か前を走ってる? ボクみたいにトレーニングでもしてるのかな?」 と、兼一は自分の前をかなりの速さで走る人影を見つけた。 こんな時間帯に走っているとなると、トレーニング目的以外の可能性はあまり浮かんでこない。 兼一がそう思ったとしても不思議ではないだろう。 「うん、ここは挨拶をするべきだよね。と言うわけで、スピード……アップ!」 ゴウン!と言う何の音だと突っ込みたくなるような音をたてて、兼一の走るスピードが上がる。 見る見るうちに前を走る人影との間が狭まっていく。 そうなると当然、前を走る者も後ろから走ってくる兼一に気づいて―― 「あっ、おは――」 ――華麗にターンを決め、走っていた運動エネルギーのほとんどを殺さずに、空へと舞い上がった。 兼一はその姿に一瞬見惚れた。 その跳躍は、兼一の目から見ても文句のつけようのない完璧な形であった。 全身のバネを余すことなく使用し大地を蹴る、腕は鳥が羽ばたくように自然な形でその跳躍を完璧なものにする。 加えて、翻るツインテールはまるで天女の羽衣のように、髪飾りである鈴は幻想的な風景を凛とした音で更に高める。 そう、そこには一枚の芸術と言って差し支えのない光景が…… 「こんのぉ、変質者がーーーー!!!」 「――よ、へっ? 『バギャ!』ぶべら!!」 ……ある訳がなかった。 何を隠そう。蹴りを放った人影こそ勤労学生であり、某クラスにおいてバカレッドと称される少女、神楽坂明日菜。 戦隊物で飛び蹴りは必須習得技であるからして、彼女が使えるのも……納得? また、赤○作品の世界において、吹き飛ぶ時は奇声を上げなくてはならない。 これは、世界の選択である。 と、それはさて置き、華麗に着地を決めた後に、20m程吹き飛んだ兼一に近づいていく明日菜。 「ふん! 変質者のくせに、やけに足が速かったじゃない! でも、足が速くてもどうせこのまま通報して……ちょっと変わってるけど、トレーニングウェアよね、これ。 それに、さっきこの人……」 (回想シーン始め) 「あっ、おは――「こんのぉ、変質者がー!」――よ、へっ?」 (回想シーン終り) 「『おは――よ』? ……も、もしかして、おはよう……だった?」 挨拶であったかもしれない、と言うことに考え至ると同時に、明日菜の顔からスーッと血の気が引いた。 よくよく考えてみれば、自分の会心の蹴りをあのスピードで食らって吹き飛んだのだ。 ……最小限の被害で全治数週間っぽい。 (新聞配達女子中学生、トレーニング中の男性を勘違いで負傷させる……じょ、冗談じゃないわよ!) 混乱極まり、頭を抱えてどうしようかと悩むが……どうしようもない。 ここで、すんなりと解決策がでるようなら苦労はしない。 伊達でバカ五人衆筆頭、バカレッドなどと呼ばれていないのだ! 「……あ〜、痛かった。 って、あのさ、落ち着いたほうが良いんじゃないかな?」 混乱する明日菜に兼一ののんびりとした声が聞こえてくる。 明日菜は一瞬、幻聴かとも思ったが、どうやら本気で大丈夫なようだ。 「へっ? ……ど、どうして無事なのーーーー!?」 明日菜のこの疑問は尤もだろう。 最近は魔法だ何だと現実離れした世界に足を突っ込んではいたものの、今まで一般人として長く生活してきたのだ。 当然、兼一達の常識を理解できる訳がない。 そんな訳で、早朝の麻帆良に明日菜の絶叫が木霊した。 あれやこれやと数十分後。 「ホントにすみませんでした!」 「良いって、誤解されるようなことをしたボクにも責任はあるからさ。 それに、撃たれ強さになら誰にも負けない自信があるし」 「えっと……それって自慢するところですか……?」 明日菜の突っ込みを無視し、両手に持った新聞を、笑いながらポストに正確に投げ込んでいく兼一。 彼のこのスキルは、家計の苦しい梁山泊を少しでも助けようと新聞配達のバイトをしている間に習得したものだ。 ちなみに、バイトを始めた当初は普通にポストへ入れていたのだが、 『おい、兼一。香坂流の割合が……少なすぎ……る。どうせだ……投擲の修行も…………やれ』 と言う、ありがたいお言葉をしゃがんだ姿勢からの上目遣いでいただいてから、必死に修行したのだ。 ミスすると後ろから色々と飛んでくるので危険がいっぱいだ。 ……ミスせずに終えると、しぐれが微笑しながら褒めてくれるので頑張ったのは秘密だが。 「これでラストかな、神楽坂さん?」 最後の配達先のポストに新聞を入れながら兼一は明日菜に問いかける。 「はい、ここが最後の配達先です。 兼一さん、ありがとうございました。わざわざ手伝ってもらっちゃって」 それに対して、彼女を知る者が見れば、素直すぎると思うほど素直に礼を言う明日菜。 普段、居候の少年やクラスの者には砕けた対応をするので、乱暴なイメージを持たれがちだ。 しかし、基本的に彼女は目上の者に対して礼儀正しいのである……暴走しなければ。 「はは、じゃあまた縁があったら」 「はい! お疲れ様でしたー!」 そう言って元気良く走っていく彼女の後ろ姿を見ながら兼一は考え込む。 (……神楽坂さんの蹴りはボクの制空圏を突き抜けた。と言うよりも、制空圏に引っかからなかった? 修行が足りないなー、咄嗟に衝撃は逃したけどちょっとダメージがあったし) 普通、20mも吹き飛べば少なくと……いや、もう何も言うまい。 修行不足と言う結論に至った兼一だが、まだ難しい顔で腕組みをして考え込んでいる。 そして、おもむろに口を開けて―― 「で、問題は……ここ、何処だろう?」 ――そんなことを言いました。 どうやら彼は、迷子らしい。 「それにしても兼一君。トレーニングは構わないんだが、迷子になるのはどうかな?」 明日菜と分かれて一時間後、やっと元の宿泊場所まで戻ってこれた兼一。 時間的にはまだまだ朝なのだが、部屋の前にはタカミチがおり、今は学園長室に向かっている。 「それを言われると反論のしようがないですよ……」 この学園が広すぎるんです!と心の中で付け加えながらもスタスタと歩く兼一。 何時ものトレーニングウェアではなく、用意されていたスーツを着ている。 ……サイズがピッタリだったことに驚かない彼は、意外と図太いのだろう。 そして、隣を歩くタカミチだが、 (ふむ、昨夜は顔を覆っていた前髪と泥で汚れていたせいで解らなかったけど……。 かなり整った、と言うよりも女性的な顔立ちだな。体格もどちらかと言えば華奢。 しかし……容姿とは裏腹にこの隙のなさ、ガンドルフィーニさん達を圧倒したって言うのも眉唾じゃないか) 兼一を観察しながらそんなことを考えていた。 確かに、兼一は母親の遺伝子を色濃く受け継いでおり、それが顕著に出ているのが容姿である。 今は髪を纏めているし、顔も泥で汚れていない。 すると、その母親譲りの顔立ちが際立ち、黙っていると女性に見間違えるほどだ。 だが、タカミチが内心で述べているとおり、兼一には隙がなかった。 今も、周りをキョロキョロと見回しながらも、タカミチへの警戒を怠っていない。 闇との抗争時代、ボリス・イワノフに変な動物扱いされたころと比べればジョグレス進化並みの評価である。 ボリス・イワノフ 兼一と同じく達人の弟子の一人であるが、彼は闇側の人間である。 また、闇と梁山泊の抗争の切欠となった存在でもある。 ロシアの戦闘技術、コマンドサンボの使い手であり、当時は兼一と互角の戦いをした。 彼の師匠の一人である馬剣星は、 『今の兼ちゃんにはとても華があるね、弟子の成長は嬉しいよ! ……連華や兼ちゃんの大学の娘たちに兼ちゃんの写真は高く売れる……って、しぐれどん!? あいやー! それは、おいちゃん秘蔵の兼ちゃんアルバム3巻! 返すね!』 などと言う感想を述べている……何か成長の部分が違う気がするが。 「あの〜、タカミチさん? 学園長室ってこの部屋じゃなかったんですか?」 「えっ? そ、そうだね。その部屋だよ。済まない、考え事をしていてね」 思考の海から兼一の声で浮上するタカミチ。 誤魔化すように、ノックをせず部屋の扉を開ける。 ……意外と焦っていたのかもしれない。 「あれ、タカミチ?」 「ん? ネギ君……もう来てたのかい?」 そして、扉を開けると、そこには近衛老とスーツを着た外国人の少年がお茶を飲んでいた。 茶色の髪を後ろで括り、利発そうな幼い顔には小さな眼鏡がちょこんと乗っている。 スーツ姿が少々背伸びをしている感を受けるが、それなりに着慣れているようだ。 そう、この少年こそ、後の世で"偉大なる魔法使い"と称されるネギ・スプリングフィールドの若き姿である。 今この時が、史上最強の弟子と偉大なる魔法使いとの出会い瞬間である。 ……が。 今この瞬間にお互いが抱いた感想は、 (……何でこの子は、スーツを着てるんだろう?) (わわ、スーツだけど、これが、や、大和撫子!?) だったりするのが、らしいと言えばらしいだろう。 つづく